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ゲーム画面・大公開!
新・アトリエはココが違う!
オープニングストーリー
新たなる目的
登場人物相関図
キャラクター紹介
 
錬金術という学問があった。
鉄を黄金に変える力、
永遠の命を吹き込む力、
無から有を造り出すための力――
人が神を越えようとする術であると言う者もいた。

だが、それは見かけだけの判断に過ぎない。
飽くなき探求心と斬新な発想が
それらを具現化させているだけなのだ。
我々は、好奇心を持っていたからこそ、
こうして進歩してきたのだから…



1.
数羽の鳩が大空を舞っていた。
鳩は自由を満喫するかの如く
大きく弧を描きながら旋回し、
やがて巨大なゴシックの建物の、数本あるうちの
一本の尖塔に飛び込んでいった。
尖塔には彼らの巣があるようであった。
鳩が巣に帰ったのと時を同じくして、
その建物 ――アカデミーと呼ばれる、
研究機関の総本山――
の一室から一組の男女が現れた。

「ふうむ…。大変なことになったな。私はともかくとして、
リリー、君はどうするかね?選択は君の自由だが…」
ドルニエ先生が、少し眉をひそめて
渋そうな顔つきであたしに尋ねた。
しかし実はこの話を聞いたときには
あたしの心の内はすでに決まっていた。
だから、あたしは即答した。
「あたし、行きます!実は話を聞いたときから
もうわくわくしちゃってて。
それにあの二人も行くんでしょ?
あたしより年下の女の子が行くのに、 あたしだけ行かないなんて
つまらないじゃないですか!」
するとドルニエ先生は、
「…そう言ってくれるのはありがたいが、 しかし本当にいいのかね?
あの二人は元々身寄りがなくて アカデミーが引き取っているから、
私などから見るといわば親子のようなものだ。だが君は違う。
親もいれば帰るべき家もある。
それに海の向こうに行くのは命がけだ。
二度と戻って来られないかも知れない。
元老院の提案とはいえ、私としてはこんな大がかりな計画に
君を巻き込むのは少々気が引けるのだよ」
ゆっくり諭すように話しているけれど、
ドルニエ先生があたしの身を案じてくれているのは
痛いほど伝わってくる。でもあたしの意志は変わらなかった。
ううん、違う。変わるも変わらないも、
あたしは行きたくて行きたくて仕方がないんだ。
「海の向こうといってもすでに行った人がいっぱいいるわけだし、
大丈夫ですよ!それにあたし、
ずーっと錬金術にのめり込んでいたから
もう親に呆れられちゃってるし。ははは…」
ドルニエ先生には冗談にとられたかも知れないけれど、
実は親に呆れられているのは本当だったりする。
「年頃の娘が錬金術だか何だか知らないけど
妙なものに興味を持っちゃって…。
街中そんなもんが流行ってるが、あーやだやだ」なんて
毎日のように言われている。
ひとしきり笑った後、あたしは言った。
「多分あたし、何か新しいことを考えたり、
造り出すことが好きなんです。
あの『旅の人』の調合を見て
あたしは「自分もやってみたい!」って思ったんです。
あたしの家そんなにお金持ちじゃないし、
自分一人で錬金術を研究することも出来ないし、
こんなあたしに色々教えてくれたドルニエ先生にも恩返ししたいし…
…行きたいんです!錬金術が好きで好きで仕方がないんです」
言ってからちょっと気恥ずかしくなってあたしは付け加えた。
「…なんて、本当は面白そうだな〜ってくらいしか
考えてないんですけどね」
そんなあたしの言葉を
わずかながら頷きながら聞いていたドルニエ先生は
意を決したように言った。
「分かった。同行してくれればありがたい、とは
最初から思っていた。
そこまで言ってくれるならば、私からもお願いするよ。
…一緒に行こう。海の向こうへ」
このときのドルニエ先生の言葉はまるで
神の言葉のようだったと思う。
あたしは興奮して思わず叫んでしまった。
「行きましょう!海の向こうへ!」
しかしすぐに一つの疑問がわいてきた。
「……でも海の向こうのどこに行くんでしょう?」
あたしが首をひねると、ドルニエ先生はやはりゆっくりと、
そしてはっきりと言った。

「東の大陸にあるシグザールという王国の中心都市、
ザールブルグ」

                   *
                   *
                   *

ケントニスの街に彼がやってきたのは
今から数十年前のことであった。
ボロボロになった服、薄汚れた身体。
先端に赤い石の付いた、妙に長い杖を持っていた。
人生に疲れ果てたかのようなみすぼらしい格好であったが、
彼は希望に満ちた顔をしており、
その鋭い眼光は力強い意志のようなものすら感じさせた。
彼はケントニスの中央、市庁舎のある、
市場で賑わう噴水広場にやってくると、
おもむろに不思議な術を披露し始めた。
見たことのない奇妙な道具を使って、
やはり見たことのない作業を開始した。
金属片――鉄のようであった――を液体に入れたり、
小さな窯で何かを焼いたりし始めた。
その光景を見た、周りの人々が恐る恐る近づいていくと
彼は急に立ち上がり、そして最後にその長い杖で
窯をコン、と叩き、そっと窯を開けた。
窯の中には黄金が入っていた。
柔らかな日差しを受けて、黄金はきらきらと輝いた。
おお、と感嘆の声が漏れる中、彼は言った。
『これが黄金を造り出す秘術、錬金術だ』
と。

ケントニスに錬金術が広まるのに時間はかからなかった。
市長と面会を果たしたその旅の男が市長から直々に
錬金術を広く広めて欲しいと頼まれたからだ。
もし簡単に卑金属から黄金が造り出せるのなら
街はこの上なく裕福になる。
また、同様に彼の術を目の当たりにした街の人々も
「もしこれが自分でも出来たら…」と感じた。
かくしてケントニスに錬金術を専門に研究する機関、
『アカデミー』が誕生したのだった。
錬金術は、必ずしも黄金を造り出すためだけの技術ではない。
この世の中に存在していない新しい素材や道具などをも造り出す。
アカデミーではそれら新素材を続々と発明、開発した。
造り出された物はそのまま一般にも流れ、
ごく普通に生活に溶け込んでいった。
ケントニスの日常は一新され、裕福なものとなった。
これらはまさに錬金術による恩恵であった。
アカデミーではより優れた
7人の錬金術士によって元老院が造られ、
そこでは日々新しい調合が研究されるようになった。
まだ黄金を造り出すまでの力は手に入れていなかったが、
その道は確実に先へと延びていた。
錬金術の未来は明るい。誰もがそう思っていた。
 しかし、そんな華やかな期間は長くは続かなかった。
 ある寒い冬の晩、錬金術をこの街に広めた功労者であり
最大の能力を持った、あの旅の男が
ひっそりと天に召されたのだ。
彼は黙して語ることはなかったが、
ケントニスに辿り着く前から数々の研究を
一人で行ってきたのだろう、彼の身体は
危険な調合による毒などの副産物によって
すでに治療不可能なまでに衰弱していたのだった。
また、自由に黄金を造り出せる力を持っていながら
何故か彼は裕福な生活をしようとせず、
ぼろを纏いパンとワインだけの生活をしていた。
それも衰弱死の原因の一つだったのかも知れない。

彼はついに最後まで黄金の生成法を教えることはなかった。
また彼がケントニスに残したものは
彼が愛用していた一本の杖のみであった。
身寄りの無かった彼はアカデミーの人々の手によって、
アカデミーの裏にある、遠く東の海が見える
小高い丘の上に建てられた墓に葬られた。
彼の本当の名を知る者も無く、
墓碑銘はただ一言『旅の人』と刻まれたのみであった。
アカデミーではそれからも元老院を中心に調合に力を注ぎ、
いくつかの新発見をしたり技術発展も達成した。
しかしそれでも今までの飛躍的な進歩と比べると
明らかに速度は落ちていた。
アカデミーの中には
「我々の技術はもう相当な高みまで到達した。
進歩が少なくなってきたのがその証拠だ」と言う者もいた。
いずれにしても彼の死によって錬金術の進歩は
その場でぱったりとその歩みを止めてしまったのだった−−

 

2.
ケントニスはエル・バドールという大陸の東の外れにある。
海岸線の少し急な斜面にある街だから、
街の中は坂ばっかりだ。街から坂を下ると、
そこは港になっていて巨大な帆船が何隻も停泊している。
海はすぐに深くなっていて波も荒いから、
あまり小さな船はないみたい。
あたしは「ザンクト・ドゥルシネア」という名前の
帆船の前に立った。きれいに畳まれた帆を見上げると、
初夏の日差しが眩しい。
あたしは元老院室内での会話を思い出していた。
おととい、突然ドルニエ先生に元老院室に来るように言われて、
今日になってあたしは先生に連れられて
アカデミーの面々でもほとんど入ったことがないと言われている
元老院室に入ったんだ。元老院室の中には円卓があって
そこに数人の人たちがいた。
どの人もアカデミーでこの人あり!と呼ばれている
凄い人たちばっかり。
彼らはドルニエ先生とあたしを椅子に座らせると
おもむろに切り出したんだ。
「錬金術を広めるために東へと向かってくれないか」――

……つまりこういうことらしい。
アカデミーでは『旅の人』無き今、
このまま数少ない資料での研究ではもう
技術的進歩が頭打ちになってしまうと判断して、
新しい血、つまり新しい発想や理論を入れる必要があると
考えたらしい。
でも同じところで同じ人たちがいくら考えたところで、
なかなか新しい発想というのは生まれない。
だから世界各地に優秀な錬金術士を派遣して、
それぞれの場所で新しい発想を生み、
技術を身につけてそれらをこのアカデミーに
持ちよれば良い…って。
そう、ちょうどあの『旅の人』と同じ事を
アカデミーぐるみでやろうっていうわけ。
そしてあたしは東方へと行って欲しいと頼まれたんだ。
一緒に行くメンバーの候補は、ドルニエ先生、
そしてあと二人、イングリドとヘルミーナという女の子。
二人ともまだ10歳で、
ぱっと見はその辺にいる子供と同じ(小生意気なところも)。
そして二人とも妙に気が強くて意地っ張りで、
いつもケンカばっかりしている。
でも実はアカデミーでも一目置いている
素質の持ち主だったりする。人は見かけによらないね…。
でもいくら「神童」と呼ばれているからといっても子供は子供。
まして女の子だもの、大の大人でも後込みするような
大冒険のメンバーに加えるのはどうかと思う。
ドルニエ先生は「親子みたいなものだから」と言っていたけど、
本当は別に理由があるような気がする。
でもあたしが訊ねてもついに誰も理由を教えてくれなかった。
とにかく。
この四人でザールブルグという街に旅立つことになったんだ。
四人のうち三人は女の子、しかも子供が二人とくれば
無事でいられるかみんな不安に思うようだけど、
あたしは全然気にならなかった。
だって、あたしはあまり船には乗ったことがないから
分からないけど、こんなに大きな船なら嵐が来ても
びくともしないだろうと思うし、それより、
やっぱり不安より何か新しいことが起こりそうな期待とか
希望の方が上回っていてわくわくしているから。
海の向こうの大陸ってどんなところなんだろう。
ザールブルグってどんな街だろう?
どんな人が住んでてどんな物を食べたりしているんだろう。
そんなことをもやもや考えていると、
ドルニエ先生とイングリド、ヘルミーナがやってきた
。 「待たせたね」
ドルニエ先生の言葉に少し微笑んで返し、
あたしは二人の女の子を見た。
今日も相変わらず何かもめているようだ。
多分、彼女たちは今回の話もちょっと大きなピクニック、
程度にしか思っていないんだろう。
「それでは、行くとしようか。
辛く厳しい大変な旅になると思うが、
みんなで力を合わせて乗り越えていこう」
ドルニエ先生の言葉にあたしは強く頷いた。
「成功させましょう!情熱があればきっとうまくいきますよ!」
いつしか桟橋に山と積まれていた積み荷は
船にほとんど積み込まれ、
代わりに巨大なはしごが掛けられていた。
あたしはこれから起こるであろう数々の出来事に
胸を膨らませながらはしごを登り、
そして船に乗り込んだ。
 
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